ベネッセSTEAMフェスタ

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月20日(金・祝)に開催を予定していた「ベネッセSTEAMフェスタ2020」は、対面での開催をとりやめ、オンラインでの新しいスタイルに挑戦することになりました。
今回のトライアルには、9校、38名の中高生がエントリーしてくれました。当初の10分の1の規模になりましたが、急な学校休止等により、生徒一人ひとりへの連絡が行き届かず、研究や作品を完成させることも難しいなかで積極的に参加いただいたことに感謝申し上げます。

前身である新しい学びフェスタの第1回目は2011年3月11日に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでの開催中に東日本大震災により中断、そのまま中止となりました。
「ベネッセSTEAMフェスタ2020」へと名称変更した今回も逆風に見舞われましたが、ネット上のコミュニティ、プレゼンテーション、ワークショップを組み合わせることにより、単なる発表・表彰の場ではなく、生徒が学びを深化・発展する場を創ることができました。学校・大学・企業とともに挑戦した新しい学びのトライアルを報告します。

発表作品への事前コメント

発表作品は事前にネット上に登録し、参加者が閲覧したり、コメントできるようにしました。生徒だけでなく、大学教授や企業人が質問やコメントを記入し、そこにさらにコメントが加わるなど活発なやり取りが行われ、フェスタ当日への期待が高まりました。
そして、このネット上でのやり取りを通じて、フェスタ当日に発表する6チームが選出されました。

当日セッション - アカデミック部門

三田国際学園高等学校 〈Surviver〉 食品廃棄物を利用し、堆肥を作る。

フードロスという社会課題に着目し、データの調査にとどまらずハワイでのフィールドワークを行った三田国際学園高等学校。身近なテーマが参加者の興味をひきつけ、質疑応答では生徒からも数多くのコメントが寄せられました。

AI研究や産学連携を専門とする日本学術会議若手アカデミーの田中和哉先生からは「具体的な対案を考えるうえで、法整備が進んでいるヨーロッパの例が参考になるのではないか」、他にも「普段の廃棄物の量と恵方巻のような季節物の廃棄物の量を分けて分析してはどうか」等のアドバイスが寄せられました。

広尾学園高等学校 〈数論チーム〉 置換の長方形ワードによるジョイン分解について

発表者が中学生のときに「あみだくじ」に興味を持ったことをきっかけに研究がスタート。その内容は大学レベルだと有識者から高く評価され、今後さらに研究を発展していくためのアドバイスが寄せられました。

広尾学園医進サイエンスコースの研究は、「新規性」にこだわっている点が特徴です。一人ひとりが必ず先行事例を調査して研究テーマを定めてきたからこそ、有識者からは「どこまでが既存研究であるのかが分かりにくくなっているのが非常に惜しい。”何が新規か”をもう少し明確にすると良い」という助言が寄せられました。

また、情報科学や数学を専門とする関西学院大学の巳波教授からは代数学の理論の一部であるガロア理論に関する良著の推薦も行われました。

玉川学園中学部 〈学びの技D〉 フォントによる印象操作は可能か

発表者自身が小学生の頃から小説を書いており、「自分の小説に合ったフォントは何だろう」と考えたことをきっかけに研究がスタート。着眼点の身近さと、様々な分野に応用できることが参加者の興味をひき、議論が盛り上がりました。
統合デザインを専門にする多摩美術大学の米山教授からは「デザイナーは同じフォントを使っても位置、色、濃淡、紙質など様々な要素に気を配っている。その関係を数値化すると面白い。ぜひ文献調査だけではなく、実験をしてほしい」というコメントが寄せられました。また、他にもは「モノを書く人がフォントや装丁を意識することはとても大切!」という応援の声も寄せられました。

有識者コメント

赤堀先生

赤堀 侃司 氏
日本STEM教育学会幹事・顧問/日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長/ICT CONNECT 21(みらいの学び共創会議)会長/東京工業大学名誉教授


中高生の皆さんが社会課題をここまで掘り下げて発表している熱意に毎回感動します。様々なバックグランドを持つ専門家の先生方のご意見も非常に勉強になります。生徒の研究発表には、学会誌に掲載されてもおかしくないハイレベルのものがあります。ぜひ各分野の学会や日本STEM教育学会の学会誌への論文投稿をめざしてください。皆さんの研究や実践がさらに発展することを楽しみにしています。

当日セッション - ソーシャルイノベーション部門

西武学園文理高等学校 〈Jonny〉 機械学習を使用した動画解析

病院での人手不足を解消するために、動画解析を使って受付時間を短縮するシステムを提案。機械学習という先端技術を扱っていることが興味をひきつけ、発表の最中にも参加者から数多くのコメントが寄せられました。
教育を通じた地域活性化に取り組む北陸大学の藤岡教授からは「地方の人手不足は本当に深刻であり、このような視点は非常に重要。このシステムの精度を上げていくためには教師データの確保が必要になるが、そのようなデータは都市部よりも地方の方が入手しやすい」とのアドバイスが寄せられました。

聖学院高等学校 〈コーヒープロジェクト〉 タイコーヒーでタイの少数民族を助ける!

約20年前に栽培が始まったばかりのタイコーヒーの販売を促進し、現地の健全な経済活動を支援する活動。タイコーヒーというまだ知名度が高くないテーマを選んだ着眼点と、豆の輸入から自家焙煎、文化祭での販売という具体的な活動に取り組んでいることが高く評価されました。
北陸大学の藤岡教授からは「このコーヒーを広めるための課題は何か?その課題をどう解決していくのか?」等の活動を発展させるため助言がありました。
関西学院大学の巳波教授からは「コーヒーの販売だけを見つめるのではなく、どんどん視野を広げていってほしい。たとえば、コーヒー豆の質や焙煎状況を画像認識AIで判断するということもできるので、理系のものとも思えるAIとも関係する。このように、AIは理系だけのものではなくて文系も大いに関係するので、勉強を続けていってほしい。」という期待のコメントも寄せられました。

有識者コメント

藤岡先生

藤岡 慎二 氏
株式会社 Prima Pinguino 代表取締役
北陸大学 経済経営学部 教授
総務省 地域力創造アドバイザー


「ソーシャル」というからには、多くの人を巻き込んでいくことが不可欠です。皆さん一人ひとりが、自分なりの動機、熱意をプレゼンして味方を増やす力を身につけることを期待しています。また、自分たちが何をもって「イノベーション」とするのかを明確にPRする力も必要。ぜひ自分たちが提案する新しい価値は何かを意識してください。

前田先生

前田 健志 氏
楽しい学校コンサルタント Second 事業主
仮想の学校「平和町高校」教諭 金沢大学非常勤講師
金沢大学附属高校(WWL)カリキュラムアドバイザー
富山国際大学付属高校コンサルタント


今回発表した2チームは、「主張するだけではなく実践する」姿勢がともに素晴らしかった。実際に活動しているからこそ聞き手は応援したいと思うし、厳しいコメントを付けることもあります。「なぜこの手段をとっているのか」という自分なりの思いをさらに押し出してください。
社会課題の解決に取り組むとき、同じように課題を感じて行動している先人はたくさんいるはずです。その人たちを巻き込むことでさらなるイノベーションが生まれます。

当日セッション - School Maker Faire部門

工学院大学附属高等学校 〈IoTしおり〉 IoTしおりで読書週間改善!

読書の習慣を管理するために、本を読むという動作の中に自然に「計測」を位置付けたプロダクト。アイデアだけではなくしっかりとプロトタイプを開発し、試行錯誤をしている点が高く評価されました。また、フェスタ当日までに寄せられた質問やコメントをもとに、発表内容を柔軟に変更したことにも驚きの声が上がりました。
有識者からは「自分もモノづくりをする人間なので、試行錯誤して実際に使える作品ができていることに感心する」等のコメントが寄せられました。

サポーター企業コメント

田村さん

田村 英男 氏
株式会社オライリー・ジャパン
テクノロジー系DIY工作専門雑誌『Make:』日本語版編集責任者


まず出版に携わる人間として、書籍に注目したプロダクトを作ってくれたことが嬉しかったです。プロトタイプの時点では「あの厚みだと本に挟むのは無理があるかなぁ」と思っていたが、新しいバージョンだと改善されていることが良かったです。Webサービスとの連携もニーズをとらえていて現実的なので、今後が楽しみです。

表彰式

多摩美術大学賞

多摩美術大学賞

広尾学園高校 〈現象数理チーム〉
待ち行列理論を用いた西武球場前駅の臨時ダイヤの評価


副賞として米山教授による出張講義を提供いただきます。

多摩美術大学米山教授

多摩美術大学 美術学部 統合デザイン学科
米山 貴久教授からのメッセージ

どの発表も誠実に課題に向き合っていることが印象的でした。一方、テーマや仮説がありきたりだったり、調査が文献やインターネットのみというものが多いことは気になった点です。
そのなかでも本研究は身近なところに問題点を見つけ、現場調査に基づき仮説を立て、知識を応用してユニークな問題解決を提案し、客観的な研究から結論を導いている点を評価しました。電車のダイヤのように間違いないものだと先入観を持ってしまいがちなものに対して疑問を持つ姿勢も優れていました。

関西学院大学賞

関西学院大学賞

西武学園文理高校 〈Jonny〉
機械学習を使用した動画解析


副賞として巳波教授による出張講義を提供いただきます。

関西学院大学巳波教授

関西学院大学 学長補佐
理工学部 情報科学科 教授・博士(情報学)
関学×日本IBM AI共同プロジェクト統括
巳波 弘佳教授からのメッセージ

このチームは、AIを研究開発するだけでなく、実際に社会課題の解決に使っていこうとする姿勢がすばらしいです.解決策を提示するだけではなく、実際にプログラムも開発しているところに実力の高さが伺えます.皆さんは、これからの社会で必要とされる、まさに「AI(を)活用(する)人材」です。
今後、皆さんが情報科学や数学に関する力だけではなく、社会に必要とされるものを見抜き・分析し・アイデアを創出する力も磨いて「文理横断的に活躍できる実力」を身につけていくことを期待します。今後、様々な領域で良い企画を提案し、実践されていくことを楽しみにしています。

センスタイムジャパン賞

センスタイムジャパン賞

玉川学園高等部 〈TMUN〉
AIと貧困 ~国際協調に向けた貧困対策~


副賞として同社が最新のAIをベースに自動運転や先進運転支援システム(ADAS)の仕組みを研究開発する「AI・自動運転パーク」(茨城県常総市)に招待いただきます。

センスタイムジャパンのみなさま

センスタイムジャパン 野上さま・岡さま・土屋さまからのメッセージ

貧困という国際的な大きな課題に取り組んでいること、多くの学校を巻き込んで活動していること、さらに有識者にヒアリングに行って試行錯誤している点を評価しました。AIという技術へのクローズアップが少なかったように思ったので、ぜひ私たちのAI・自動運転パークに来て知識を持ち帰り、活動の糧にしてほしいです。

 

センスタイムジャパン 勞社長からのメッセージ

弊社のAI・自動運転パークで技術が実用されている現場を見ていただくことが、みなさんの研究や見識をさらに深める機会となったり、今後進路を検討する際の参考となれば嬉しいです。

ものづくり賞(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

ものづくり賞

工学院大学附属高等学校 〈IoTしおり〉
IoTしおりで読書週間改善!


副賞として「toio™バリューパック」をご提供いただきました。

SIE田中さま

ソニー・インタラクティブエンタテインメント
toio™開発者 田中さまからのメッセージ

ものづくりの完成度の高さと着眼点のオリジナリティを評価しました。実際に作り、テストして、事前のフィードバックを取り入れたうえで改善したものを発表していた点も素晴らしいです。私たちはものづくりを担う企業として、お客様の声を聞いたり自分たちで使ったりして改善することは何より大切なことだととらえています。そのようにして技術力が向上していくからです。それを高校1年生にして身につけていることにも驚きました。将来が楽しみです。

グローバルリンク賞(JTB)

JTBグローバルリンク賞

郁文館グローバル高校 〈教育ゼミ〉
学校・教師・教育の存在意義とは


副賞としてグローバルリンク・シンガポールに1名を招待いただきます。

JTB植木さま

JTBグローバルリンク事務局
植木さまからのメッセージ

グローバルリンク・シンガポールは、日本だけでなくASEAN各国の生徒が集まる課題研究の発表会です。毎年シンガポールで開催しています。日本以外の高校生が数多く参加しますので、ぜひ他国の教育についても調査して参加いただきたいと思います。そして、海外の人に日本の教育に興味を持っていただけるような発表をしていただけることに期待しています。

School Maker Faire 賞

ものづくり賞

工学院大学附属高等学校 〈IoTしおり〉
IoTしおりで読書週間改善!


副賞として「オライリーの書籍5冊」を提供いただきました。

オライリー田村さま

オライリー・ジャパン
田村さまからのメッセージ

素晴らしい作品です。なおかつ夏のフェアでの発表から改良されている点に感銘を受けました。次のMaker Faireにもぜひ出場いただき、さらにパワーアップしたプロダクトを見せていただけることを期待しています。

ジュニア・アカデミー賞、ソーシャルイノベーター賞

今年度は、「アカデミック部門」「ソーシャルイノベーション部門」の部門賞は該当なしとなりました。コロナウイルスの感染拡大による学校休止等により、当初エントリーしていたチームの大半が参加できなかったこと、再エントリーしたチームも必ずしも作品を完成させることができなかったことをふまえての判断です。
一方、今後さらなる発展が期待できる取り組みを発表した2チームを特別賞として表彰しました。両チームには、副賞として主催者と共に中高生向けのオンラインワークショップを企画・実施する権利を提供いたします。

特別賞

聖学院高等学校&女子聖学院高等学校 〈健康促進お助け隊!!〉
パラスポーツで健康促進!

特別賞

西武学園文理高等学校 〈今日もtatushiko〉
外来種削減の一案を求める

生徒より

生徒1

ユニークなテーマと評価をしていただけたことが嬉しかった。多くのコメントをいただき、西武鉄道に実際にアプローチして自分の仮説を検証してみたいという気持ちが強くなりました。

 
生徒2

研究の過程で、教師に依存するだけではなく生徒自身が主体的に学びに行く責任があることを感じた。日本の教育システムをより深く知るためにも、欧米やアジアの教育システムをしっかりと勉強したい。

 
生徒3

ものづくり賞とSchool Maker Faire部門賞のW受賞を光栄に思います。このように、50名以上のかたの生の意見を聞ける機会がとても貴重でした。
今年は「教育×ものづくり」というテーマで論文を書く予定なので、研究の姿勢・論文の書き方が学べたことが有意義でした。

最後に

ベネッセ社員より

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
岡山大学学長特別補佐
小村俊平

まずコロナウイルス感染拡大のなか、オンラインでの新しいスタイルに一緒に挑戦いただいた皆さんに感謝申し上げます。
ベネッセSTEAMフェスタは、三つのことを大切にしています。
第一に、中高生と社会人、学習者と専門家など、多様な人がフラットに参加する場であり、中高生だけでなく、参加者全員が学ぶ場としてデザインすることです。
第二に、アカデミック、ソーシャル、メーカーズの各分野が交流し、新しい価値を生み出す場としてデザインすることです。
第三に、「学んだ結果に対する報酬」ではなく、「各自の実践や研究を発展させるための機会」を得られる場にすることです。
今回オンラインの交流を加えることで、フェスタが大切にしていることが、より深く実現できる可能性を感じることができました。
参加いただいた中高生の皆さんにお伝えしたいのは、早熟の天才にならないでほしいということです。いつか誰もができることを少し早くやる人にならないでほしい。すぐには理解されず、賛否両論を巻き起こすかもしれないが、社会をゆさぶる新しい何か。そんな何かに挑戦していきましょう。フェスタはそんな挑戦者が集まり、大きなうねりを生み出していく場です。また来年お会いしましょう。  

ご参加ありがとうございました!

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